取材班は都内および近郊のヘアサロン複数店舗で働く現役スタッフに接触した。そこで浮かび上がってきたのは、表向きのメニュー表には決して記載されない「暗黙のルーティン」だ。都内の有名サロンに勤務する20代の美容師は、声を潜めてこう明かした。
「ホットペッパーなど公の予約サイトには絶対に載せません。施術履歴にも残さない。常連客から『ピアッサーを持参するから開けてほしい』と頼まれた際、店長に目配せしてシャンプー台の奥でこっそり開けるケースは、正直言って業界内で珍しくないんです。料金は取らず、チップ感覚でドリンクを差し入れされたり、指名維持のサービスとして処理されたりします」
無料なら違法ではない、という理屈は通用しない。反復継続して行われる環境そのものが問題視される上、万が一の医療事故が起きた際の補償体制は皆無に等しい。別のスタイリストは「耳たぶを挟む位置がずれて出血が止まらなくなったり、顧客が貧血で倒れそうになったりして青ざめた経験がある」と語る。サロンのバックヤードに常備されているのは止血剤や局所麻酔ではなく、カット用の消毒アルコールとコットンだけだ。医療のバックボーンを持たない空間で針を刺す行為が、いかに危うい綱渡りであるかを物語っている。