本作をひとつのジャンルに閉じ込める試みは、おそらく徒労に終わる。一見すると繊細な家族関係や社会の歪みを描き出す重厚なヒューマンドラマの佇まいを見せながら、底流には息をもつかせぬミステリー映画としての鋭敏なギミックが張り巡らされているからだ。
観客は登場人物たちの悲喜こもごもに感情移入した瞬間、足元をすくわれる。信じていた光景が反転し、照らされていたはずの真実が闇へと沈む。二重三重に張り巡らされた仕掛けは、安易な謎解きカタルシスを拒絶し、観る者自身の倫理観を試す。ジャンルの枠組みを解体したことこそが、本作を唯一無二の存在へと押し上げた原動力だ。