映画界で数々の敵役や剣豪役を演じ、重厚な実力派として確固たる地位を築いていた近衛十四郎が、お茶の間の国民的人気を決定づけたのが1960年代後半のテレビ時代劇でした。その筆頭が、1965年から放送された『素浪人 月影兵庫』(NET・東映)です。
南條範夫の原作をドラマ化した本作で、近衛は無敵の剣の腕前を持ちながら、猫と酒が大の苦手という人間味あふれる素浪人・月影兵庫を好演。品川隆二が演じる相棒「焼津の半次」との絶妙な掛け合いは爆発的な人気を呼びました。しかし、原作者との設定調整などを経て番組は終了。その直後、同じキャスト・スタッフ陣で制作された後継番組が、テレビ時代劇史に残る傑作『素浪人 花山大吉』(1969年〜1970年)です。
花山大吉は、無類の酒好きで「おから」に目がなく、普段は飄々として頼りないものの、いざ悪人を前にすると居合の神技を繰り出し一瞬で制裁を下すというキャラクター。このギャップが視聴者の心を掴み、最高視聴率30%超を記録する大ヒットとなりました。劇中で見せた「背筋を伸ばし、一切の無駄を排した立ち回り」は、コミカルなドラマ展開の中にあって強烈な引き締め役となり、昭和のお茶の間に「強い侍の理想像」を刻み込みました。