英語史および言語音韻論の研究資料によると、動詞「read」の綴りと発音が乖離した背景には、中英語から初期近代英語(14世紀〜17世紀)にかけて生じた2つの大きな言語的出来事が関わっています。
古英語の時代、この単語は「rǣdan(助言する、解釈する)」という形をしており、長母音を持っていました。中英語の時代に入ると、過去形や過去分詞において語尾に「-de」や「-te」が付く過程で母音が短縮される音韻変化(Shortening before consonant clusters)が起こり、現在形は「rede(長母音:レードに近い音)」、過去形は「redde / radde(短母音:レッド)」と、発音だけでなくスペルも明確に区別されていました。
状況が一変したのは、15世紀から17世紀にかけて起きた「大母音推移(Great Vowel Shift)」と、同時期に進展した「活版印刷術の普及による綴りの標準化」です。大母音推移によって、現在形の長母音 [eː] は現代の [iː](リード)へと引き上げられましたが、過去形の短母音 [e] はそのまま維持(レッド)されました。
一方で、当時の印刷業者たちは単語の見た目の統一性を重んじ、語幹が一目で同じ動詞であると分かるよう、過去形「redde」のスペルを現在形「read」に合わせて統合してしまいました。この「発音の変化(大母音推移)」と「表記の固定化(印刷業者の標準化)」のタイミングのズレこそが、スペルは「read」のまま発音だけが「レッド」として現代に残った決定的な理由です。