一度失われた肺胞は元通りに再生するのか。結論から言えば、現在の成熟した臨床医学において、完全に破壊された肺胞組織を再生させる確立された治療法は存在しません。肺胞破壊の原因は多岐にわたりますが、代表的な2大疾患を知ることでその深刻さが浮き彫りになります。
ひとつは、主にタバコ煙などの有害物質によって引き起こされる肺気腫です。タバコの煙に含まれる有害物質が肺胞に侵入すると、免疫細胞であるマクロファージや好中球が活性化し、タンパク質分解酵素を過剰に放出します。この酵素が肺胞の壁(弾性線維)を溶かし、隣り合う肺胞の仕切りが破壊されてしまいます。
小さな部屋が無数にあった空間が、壁を壊されてひとつの大きな「スカスカの空洞」になってしまう状態です。表面積が激減するだけでなく、肺のゴムまりのような弾力性(弾性収縮力)が失われるため、吸い込んだ息を外へ吐き出せなくなる閉塞性換気障害を引き起こします。
もうひとつが、肺胞の壁そのものが厚く硬くなる間質性肺炎です。肺胞腔(空気の部屋)ではなく、肺胞の壁や支持組織である「間質」に慢性的な炎症が生じ、線維化(コラーゲン線維の過剰沈着)が進行します。スポンジが硬いタワシのようになって広がらなくなる拘束性換気障害であり、血液空気関門が分厚くなるため、酸素が毛細血管へと拡散できなくなります。
間質性肺炎は自己免疫疾患(膠原病)や特定の薬剤、粉塵の吸入、あるいは原因不明の特発性など多様な要因で生じます。肺胞が「溶けてスカスカになる(肺気腫)」のか、それとも「線維化してガチガチに硬くなる(間質性肺炎)」のか。アプローチは正反対ですが、どちらもガス交換の場を物理的に喪失させる点では共通しています。