風邪や生活習慣病で通い慣れている内科クリニックで「夜眠れなくて辛い」と訴えても、医師から「うちでは睡眠薬は出せません」「専門の医療機関へ行ってください」と突っぱねられるケースが急増しています。患者側からすれば「たかが睡眠薬数日分でなぜ」と疑問に感じる場面ですが、ここには内科で睡眠薬が処方されない決定的な理由が幾重にも存在します。
第一の壁となるのが、睡眠薬の初診処方における医師の判断経緯です。不眠という症状は、単一の病名ではなく、高血圧や喘息といった身体疾患の随伴症状、うつ病や適応障害などの精神疾患の初期兆候、さらには睡眠時無呼吸症候群(SAS)やむずむず脚症候群といった専門的疾患のサインである可能性を孕んでいます。一般内科の外来は1人の診察時間が数分程度に限られることが多く、背景にある複雑な精神的ストレスや睡眠環境の歪みを多角的に鑑別しきれません。精神疾患に起因する不眠に対し、原因を精査しないまま睡眠薬だけを対症療法的に投与すると、基礎疾患が悪化して自傷行為や重症うつ病の引き金になりかねないため、内科医は防衛的にならざるを得ないのです。
第二の要因は、国の医療費抑制策と連動した処方規制です。厚生労働省が定める保険診療の規定では、睡眠薬の安易な長期処方や多剤併用に対して厳しい診療報酬の引き下げ(減算措置)が課せられています。精神科や心療内科の専門医であれば適切な精神療法の管理料を算定できますが、一般内科ではそのような算定枠組みを持たないクリニックが多く、ハイリスクな処方を引き受けるメリットが医療機関側に乏しいという現実的な構造問題があります。