蜂の子を語る上で欠かすことができないのが、長野県や岐阜県東濃地方、愛知県三河山間部に根付く「昆虫食文化」の奥深さです。四方を険しい山に囲まれ、海の魚が手に入りにくかった内陸部において、蜂の子は貴重な動物性たんぱく源であり、過酷な冬を乗り越えるための知恵でした。
なかでも信州地方で「すがれ」、東濃地方で「へぼ」と呼ばれるクロスズメバチは、地域住民にとって特別な存在です。秋になると山野で綿くずをつけたエサ昆虫を放ち、それを追って地中の巣を見つけ出す「蜂追い(すがれ追い)」は、今や風流な秋の風物詩であり伝統行事として継承されています。
地元で開催される「へぼコンテスト」では、愛好家たちが独自のエサ(鶏肉や砂糖水)を与えて手塩にかけて育て上げた巨大な蜂の巣を持ち寄り、重さを競い合います。優勝した巣は1キロあたり数万円という高値で競り落とされることも珍しくありません。単なるサバイバル食ではなく、手間暇をかけて収穫・調理される「秋のごちそう」であり、客人を歓待するための最上級の料理として誇りを持って食されてきた背景があります。