インターネット上の医療情報では「首が硬直して曲がらなくなるのが髄膜刺激症状」と画一的に解説されがちですが、ここに現場医療における最大の落とし穴が存在します。成人の健康な筋肉と骨格では明瞭に観察される項部硬直やケルニッヒ徴候が、小児 髄膜刺激症状および高齢者の発症例では、まったく現れないケースが珍しくないのです。
生後数ヶ月から1歳前後の乳幼児では、神経系が未発達であり頸部の筋力も弱いため、髄膜炎に罹患していても首の硬直がほとんど確認できません。その代わりに出現する決定的なシグナルが、頭頂部にある骨の隙間がパンパンに張り出す「大泉門(だいせんもん)の膨隆」です。さらに、以下のような非典型的な行動変化が先行します。
- 抱っこしてもあやしても決して泣き止まず、触られることを激しく嫌がる(痛覚過敏)
- 弱々しく金切り声をあげるような、これまでに聞いたことのない「甲高い泣き声」を出し続ける
- 哺乳力が急激に落ち、噴水状にミルクを何度も嘔吐する
- 視線が合わず、ぼんやりと天井の一点を見つめたまま呼びかけに反応しない
一方で、75歳以上の高齢者における髄膜刺激症状も極めて欺瞞的です。加齢によって頸椎の変形や筋拘縮が日常化している高齢者では、普段から首が硬く、項部硬直の有無を理学所見だけで判別することが極めて困難です。また、免疫応答が鈍化しているため、細菌性髄膜炎という致死的な病態であっても高熱が出ず、37度台前半の微熱や平熱のまま経過することがあります。家族が気づくサインは「急に辻褄の合わないことを言い始めた」「昼夜問わず傾眠傾向が続き、食事を摂らなくなった」といった、認知症の急激な悪化に見える意識変容だけという事例が多発しています。
「首が曲がるから髄膜炎ではない」とネットの断片的な知識だけで素人判断を下すのは致命的な誤謬です。年齢階層によって生体のシグナルは姿を変えるという事実を、強く認識しておかなければなりません。