「病院に行く時間がないから、薬局やドラッグストアで抗生物質の錠剤を買いたい」と考えたことがある人は少なくありません。しかし、日本の医薬品医療機器等法(薬機法)において、内服(飲み薬)の抗生物質・抗菌薬はすべて「処方箋医薬品」に指定されており、一般用医薬品(OTC医薬品)として店頭販売されることは法律上絶対にありません。
化膿止めとしてドラッグストアで市販されている「テラマイシン軟膏」や「ドルマイシン軟膏」などの外用塗り薬は存在しますが、全身に作用する飲み薬の抗菌薬は厳格に医師の診察が義務付けられています。これには主に3つの明確な安全管理上の理由が存在します。
- 病原体の正確な診断が不可欠であること:前述の通り、症状がウイルス性か細菌性かの鑑別は、医師が身体所見、血液検査、迅速抗原検査などを総合して初めて下せます。患者の自己判断による購入を認めれば、風邪に対して無意味に乱用されることが火を見るより明らかだからです。
- 投与設計と副作用のモニタリングが必要であること:抗菌薬は腎臓や肝臓で代謝・排泄されます。腎機能が低下している高齢者が通常量を服用すると血中濃度が危険域まで上昇し、中毒症状や急性腎障害を引き起こす危険性があります。患者の年齢、体重、採血データに応じた精密な投与設計が欠かせません。
- 国家的な薬剤耐性菌の拡散防止:誰でも自由に購入できる環境を作れば、世界中で懸念されている耐性菌のパンデミックを国内で助長することに直結します。
近年、インターネットの個人輸入代行サイトを通じて海外製の抗菌薬を不法に購入し、自己流で服用する危険なケースが一部で見られます。しかし、届いた薬が粗悪品・偽造品であるリスクが高いだけでなく、重篤なアレルギー反応や臓器障害が起きた際に国の「医薬品副作用被害救済制度」の対象外となります。死に至るリスクや重い後遺症を負う危険を冒してまで個人輸入薬に頼る行為は、極めて危険な愚行と言わざるを得ません。