子供の皮膚は成人に比べて角質層が薄く、細胞分裂が極めて活発です。新陳代謝が早いことは治癒の早さにつながる反面、ひとたび炎症が長引くと過剰な修復反応を引き起こします。まさにこの過剰な生体反応こそが、子供の顔の傷跡が残る決定的な理由となります。
皮膚組織は表面の「表皮」、その奥にある「真皮」、そして「皮下組織」で構成されています。擦り傷が表皮基底層までにとどまっていれば、皮膚は痕を残さずに完全再生します。しかし、真皮の深層(網状層)まで達する深い傷や挫滅(ざめつ)傷を負うと、身体は欠損部を埋めるためにコラーゲン線維を急造します。このとき、患部が乾燥して厚いかさぶた(壊死組織)が形成されると、表皮細胞の遊走が阻害され、治癒に14日以上の時間を要してしまいます。炎症期間が2週間を超えた創部は、ほぼ例外なくコラーゲンが過剰に蓄積し、赤く盛り上がる肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)へと移行するリスクが跳ね上がります。
子供の顔の擦り傷跡をきれいに治す現在の標準治療は、徹底した「湿潤療法(モイストヒーリング)」です。受傷直後に消毒液を使ってはいけません。消毒薬は細菌だけでなく、傷を治そうと集まってきた正常な表皮細胞や線維芽細胞まで破壊してしまいます。まずは流水(水道水)で傷口に入り込んだ砂や土、夾雑物を完全に洗い流し、医療用のハイドロコロイド被覆材や軟膏で密封して浸出液(細胞成長因子を豊富に含む体液)を保持することが、傷跡を最小限に抑えるための絶対条件です。