彼女の才能をいち早く見抜き、演技者としての土台を鍛え上げたのが、劇団俳優座の創設者であり演劇界の巨匠・千田是也だった。千田の厳しい指導のもと、市原悦子はリアリズム演劇の真髄を貪欲に吸収していった。
1957年の舞台『千鳥』で芸術祭賞奨励賞を受賞。当時としては異例の若さでの快挙だった。その後も『主婦マッカンバ』や『コーカサスの白灰の輪』など、難解かつ重厚な海外戯曲の古典から現代劇まで、幅広い役柄を見事に演じ分けた。彼女が舞台に立つだけで、劇場の空気が一変したと言われる。
声の張りと独特のイントネーション、そして全身から放たれる情感豊かな表現力。単なる「顔立ちの綺麗な女優」にとどまらず、舞台演劇の第一線で実力派として異彩を放ち続けた軌跡こそが、後年の大女優・市原悦子の確固たる礎となったのだ。