日本のメディアでマサイ族の視力が爆発的な話題となったのは、1980年代から1990年代にかけて放送されたテレビ番組の現地検証企画が発端です。ロケ隊がサバンナの平原に巨大なランドルト環(Cの字マーク)を設置し、被験者がどこまで離れて隙間の向きを識別できるかを計測した結果、視力8.0から最大12.0相当という規格外の記録が叩き出されました。
眼科学において一般的な視力表(国際標準の小数視力)は、被検者から5メートルの距離に設置され、視力2.0程度までしか測定枠がありません。5メートル先の極小ランドルト環を判別する通常の室内環境では、光の回折現象や網膜の視細胞(錐体細胞)の密度限界があるため、理論上の最大分解能は2.5〜3.0程度が上限とされています。
現地で行われた「視力8.0」の測定は、被験者を通常の測定距離から大きく後退させ、数十メートル離れた位置から巨大な標的を視認させる変則的な手法による換算値です。学術的なランドルト環測定限界を厳密に適用すれば単一の視力値として公認されるものではありませんが、遠距離にある微小な対象の輪郭やコントラストを正確に捉える分解能力が、都市生活者の基準を遥かに凌駕していたことは紛れもない事実です。