映画『耳をすませば』を巡る最大の議論点、それは作中で描かれる「図書カードの伏線」だ。ヒロインの月島雫が図書館で借りる本の図書カードには、常に「天沢聖司」の名前が先に書かれていた。一見すると、偶然を装って運命を引き寄せたロマンチックな演出に見えるが、現代の視聴者視点では「あらかじめ雫の動向を調べて先回りしていたのではないか」という都市伝説的な疑念を生む要因となっている。
しかし、制作陣が残したコンテや裏設定を紐解くと、この都市伝説の真実が浮き彫りになる。聖司が行ったのは雫の個人情報を不正に入手した追跡行為ではなく、偶然同じ図書室を頻繁に利用する中で雫が好む本の傾向を把握し、彼女の目に触れるであろう書籍を徹底的に読み尽くすという、極めて愚直なアプローチだったのだ。名簿やデジタルデータのない時代だからこそ成立した、昭和から平成初期における図書カードという物理メディアを通じた静かなアピールだったと言える。