SNSや口コミサイトで頻繁に目にする「食べても食べても丼の中の麺が増えていく」「底から麺が湧き出ているのではないか」という都市伝説。この現象には、麺の製法と茹で工程に明確な物理的理由が存在します。
牧のうどんの最大の特徴は、一般的なうどん店のように「茹で上がった麺を冷水で締める」という工程を一切踏まない「純粋な釜揚げ製法」を採用している点にあります。水で締めない麺は表面のグルテン構造が引き締まらず、開いた状態のまま熱々の丼に盛られます。結果として、麺がスープを猛烈な勢いでスポンジのように吸収し続け、時間経過とともに麺自体が膨張します。これが「麺が減らない」錯覚を生み出す正体です。
そして、うどんが運ばれてくると同時にテーブルへ置かれる小さなアルミ製「スープの入ったやかん」。初めて訪れた観光客の中には「お茶と間違えて湯呑みに注いでしまった」という失敗談が後を絶ちません。このやかんの中身は、急激にスープを吸って乾きかけてしまう丼へ注ぎ足すための純度100%の「追加出汁」です。熱々の黄金出汁を適宜足しながら、自分好みの濃度と温度を保ちつつ完食へと向かうのが、同店で確立された独自の食事システムなのです。