結論から述べると、原爆の熱線によって「人体が液体のようになって溶ける」「完全に気化して大気中に蒸発・消失する」ということは、生体物理学および法医学の観点から起こり得ません。実際に起きていたのは、超高熱線による瞬間的な急激な脱水と炭化(黒焦げ)、そしてその直後に襲いかかった爆風と猛火による焼失です。
広島の爆心地点(島病院上空約600メートル)や長崎の爆心地点(松山町交差点上空約500メートル)で炸裂した原子爆弾は、炸裂の瞬間、中心部に数百万度を超える超高温の火球を形成しました。この火球から放射された強烈な熱線により、爆心地周辺の地表面温度は約3,000℃〜4,000℃(太陽の表面温度は約6,000℃、一般的な火葬炉は約800℃〜1,000℃)に達したと記録されています。
人体は約60〜70%が水分で、残りはタンパク質、脂質、そして骨を構成するカルシウムなどの無機質から成り立っています。数千度におよぶ熱線が照射された瞬間、皮膚や筋肉の水分は瞬時に沸騰・蒸発し、組織のタンパク質は熱変性を起こして激しく収縮・炭化します。しかし、骨の主成分であるリン酸カルシウムなどの融点は約1,670℃であり、気化(蒸発)するにはさらに高い熱量と継続的な加熱が必要です。原爆の熱線照射時間はわずか0.2秒〜数秒間という極めて短い閃光であったため、骨まで気化して無に帰すエネルギーを与えることは物理的に不可能です。
したがって、至近距離で被爆した人々は「溶けて消えた」のではなく、一瞬にして極度の熱線に晒されて全身が炭化し、子どもほどの大きさにまで縮んだ炭化遺体となってその場に残されました。その後、秒速数百メートルに達する強烈な爆風で吹き飛ばされ、さらに市街地を覆った大火災によって灰燼に帰したため、あたかも「人間が忽然と消え失せた」かのような状況が生み出されたのが実態です。