ママレード作りにおける最大の壁は、果皮特有のエグみと食感の硬さです。特に甘夏や夏みかん、伊予柑などの国産柑橘を扱う場合、適切な下処理を行わないと、薬のような苦味が前面に出てしまいます。
苦味の主成分は、果皮やワタに含まれるリモノイドやナリンギンというポリフェノール化合物です。これらを適度に抑えつつ、柑橘の爽快なアロマを残すための核心は皮の白いワタの処理方法にあります。
かつては「白いワタは苦いのでスプーンですべて削ぎ落とす」という言説が主流でした。しかし、製菓理論の観点から見ると、これは大きな間違いです。白いワタ(アルベド)には、ジャムにとろみをつける天然のペクチンが凝縮されています。ワタを完全に削り落としてしまうと、後からいくら煮詰めても固まらない原因になります。
プロの現場で実践されている正解は、「外皮とワタを一緒に極薄の千切り(1〜2mm幅)にし、水から加熱して沸騰したら湯を捨てる『茹でこぼし』を2〜3回繰り返す」という手法です。薄切りにすることで組織が壊れ、不要な苦味成分だけがお湯へと溶け出します。茹でこぼした後は、流水に10〜30分ほどさらすことで、澄んだ透明感としなやかな柔らかさを持つ極上のピールに仕上がります。