荒地の魔女という複雑怪奇なキャラクターを唯一無二の存在へと押し上げた最大の功労者は、声を担当した美輪明宏にほかならない。『もののけ姫』のモロの君に続いて宮崎駿監督から直々の熱烈なオファーを受けた美輪は、この魔女に多層的な人間味と凄味を吹き込んだ。
当時の制作インタビューや特番において、宮崎監督は美輪に対し「かつて絶世の美女として男たちを翻弄し、今なおその残影を引きずっている哀しい女性」というニュアンスを伝えたと証言されている。美輪はそのオーダーに対し、序盤の低音で艶のある威圧的な声音から、王宮の階段を這い上がる際に見せる醜態、そして魔力を奪われた後の無邪気で愛らしい舌足らずなトーンまで、声色を自在に操って演じ切った。
2020年代半ばを過ぎた現在でも、SNS(XやFilmarksなど)では金曜ロードショーの放送時に荒地の魔女に関する熱い議論が巻き起こる。
「階段を登りながら『サリマンのやつ…』と息を切らす演技がリアルすぎて鳥肌が立つ」「最初は本当に怖くて大嫌いだったのに、カルシファーに薪をあげるシーンや、最後に『大事にしな、あんたの惚れた男だろ』と心臓をソフィーに返すシーンで思わず泣いてしまう」といった視聴者の声が後を絶たない。単なる勧善懲悪の悪役にとどまらない「人間が抱える業の深さと可愛らしさ」が、時代を超えて共感を呼んでいる。