では、電車人身事故における実際の損害賠償請求額はどのように算出され、どの程度の金額になるのでしょうか。実務上、請求の対象となる損害項目は主に以下の4つに分類されます。
第1に「他社線への振替輸送費用」です。事故発生時、鉄道会社は乗客の移動手段を確保するために近隣の私鉄や地下鉄へ乗客を迂回させ、その運賃を立て替え払いします。過密路線の朝ラッシュ時などでは、この振替輸送費が数百万円規模に膨らむ主要な要因となります。
第2に「車両および線路設備の修繕・清掃費用」です。電車の先頭部分(フロントガラスやスカート)の破損補修、投光器の交換、現場の特殊清掃費用などが該当し、これらは実費として数十万円から200万円程度計上されます。
第3に「遅延損害金および特急料金の払い戻し費用」です。特急列車や新幹線が2時間以上遅延した場合、鉄道会社は特急料金の全額払い戻し義務を負います。この払戻総額が直接の損害として算定されます。
第4に「現場対応に要した人件費」です。救助活動、警察・消防の現場検証への立ち会い、運転再開に向けた指令業務などに動員された人員の時間外手当などが加算されます。
これらを合算した損害賠償額の相場は、地方の単線や運行密度の低い路線であれば100万円〜300万円程度、首都圏や関西圏の主要幹線であっても300万円〜1,000万円前後が実質的な着地点となります。踏切で立ち往生した大型トラックとの激突など特殊な重過失事故を除き、通常のホーム事故において数千万円を超える請求書が確定することは極めて異例です。