服飾史および繊維業界の公式定義に照らし合わせると、レギンスとスパッツの基本的な衣服構造に決定的な違いはありません。どちらも伸縮性のあるニットやストレッチ素材で作られ、腰から脚にかけて密着するボトムスを指します。しかし、日本国内において両者が歩んできた道筋には大きな隔たりがあります。
歴史を紐解くと、スパッツの語源と歴史的経緯は、泥除けや靴カバーを意味する英語の「spats(スパッツ)」、あるいは「spatterdash(スパッターダッシュ)」に遡ります。日本では1980年代初頭のフィットネス・エアロビクスブームの際、大手下着メーカーやスポーツウェア各社が脚にぴったり沿う運動用ボトムスを「スパッツ」と命名して販売したことで一般名詞化しました。1990年代には学校指定の運動着の下に穿く「黒スパ」や防寒インナーとしても定着し、大衆的な日常着として広く認知されていきました。
転機が訪れたのは2006年前後です。女性ファッション誌を中心に、ミニスカートやショートパンツの下に合わせる重ね着スタイルが再流行した際、スパッツからレギンスへの呼び方の変遷が一気に加速しました。百貨店やアパレル各社のマーケティング担当者は、かつての「エアロビクス」「中高生のインナー」「防寒ももひき」といった生活感あふれるイメージをリセットするため、脚を覆うアイテムを意味する英語「leggings(レギンス)」を採用したのです。
これが、ネット上で囁かれる「スパッツが死語になった理由と真相」の裏側です。言語学的な淘汰ではなく、アパレル産業による明確なリブランディング戦略によって、街着のレイヤードアイテムは「レギンス」、下着や競技用アンダーウェアは「スパッツ」という文脈上の分離が成立しました。