多くの観光客が抱く「なぜ今どきネット予約システムやオンライン決済を導入しないのか」という疑問。この背景には、単なる業務のIT化の遅れではなく、妙立寺が背負う特殊な建築構造と安全管理上の切実な理由が存在します。
第一の理由は、拝観に課される厳格な参加条件を、肉声の対話によって事前に100%確認・合意させるためです。妙立寺では、堂内の安全確保のため「未就学児(乳幼児を含む小学校入学前の子ども)」の拝観を固く禁じています。ネット予約を導入した場合、利用規約を読み飛ばして小さな子ども連れで訪れてしまい、現地窓口で入場を断られて激しいトラブルに発展するケースが懸念されます。電話であれば、「お子様は何歳ですか」「小学生未満のお子様は同伴できませんがよろしいですか」と受付担当者が直接念押しできます。
第二の理由は、拝観グループの編成最適化です。堂内には幅が狭く傾斜の極めて急な隠し階段や、床板が外れる落とし穴など、一歩足を踏み外せば大怪我に繋がる危険地帯が無数に存在します。電話受付の段階で、高齢者の有無や足腰の健康状態、車椅子の利用不可といった身体的条件を把握し、安全にツアーを催行できる人数配分を熟練の寺務スタッフがアナログに差配しているのです。
さらに、妙立寺はアミューズメント施設ではなく、現在も信仰と修行が営まれる厳粛な寺院です。無機質なWeb予約による気軽なドタキャンや転売を抑止し、寺院の歴史とルールに敬意を払う参拝者を受け入れたいという、寺院側の防衛哲学が電話予約というハードルに込められています。