重大事件が発生した直後の情報空間において、最も警戒すべきは「事実の歪曲」と「陰謀論の暴走」です。当時、Twitter上ではアルゴリズムによる拡散力も手伝い、荒唐無稽なデマが信憑性を持って語られる事態が発生しました。
その代表例が「ビル屋上からのスナイパー狙撃説」です。大和西大寺駅前の商業ビルの屋上から別の狙撃手が撃ったのではないかという言説が、不鮮明な現場写真や独自解釈の弾道図とともに数万件拡散されました。しかし、警察庁が発表した検証報告書および奈良県警による司法解剖の結果、死因は山上被告の手製銃から発射された散弾による左右鎖骨下動脈損傷に伴う失血死であることが明白に特定されています。至近距離からの散弾発射という物理的痕跡と、手製銃の威力検証データにより、遠距離狙撃説は科学的に完全に否定されました。
また、「特定の野党関係者が関与している」「外国勢力が背後にいる」「安倍氏は実は生きておりクライシスアクターが演じている」といった悪質なフェイクニュースも多数確認されました。これらは、情報が不透明な極限状況下において、人々が自己の信条や党派性に合致するストーリーを無批判に受け入れてしまう「確証バイアス」と、フィルターバブルが生み出した現代の病理と言えます。