本作の深い魅力は、登場人物たちが単なる記号的なキャラクターではなく、それぞれに容易には癒えないトラウマや心の傷を背負っている点にあります。物語の骨格を成す主要人物の関係性を整理します。
清水美空(主人公):
霊的な存在や未練の情動を感知してしまう自身の体質を「呪い」のように捉えていた大学生。他人の感情に過敏に共鳴してしまうため、社会に対して心理的な防壁を築いていました。しかし、葬儀の仕事を通じて自身の感覚が「遺族の後悔を和らげる架け橋」になり得ることに気付き、自らの居場所を見出していきます。
漆原(指導役・葬祭ディレクター):
坂東会館の屋台骨を支えるベテランディレクター。遺族に対して過剰な同情を見せることはなく、プロとしての礼法と段取りを徹底します。周囲からは完璧主義者として恐れられることもありますが、その行動の根底には「遺された遺族が、故人の死を悔いなく受け入れるための儀礼を完遂する」という揺るぎない覚悟が存在します。彼がなぜそこまで葬儀という儀式に人生を捧げるのか、その理由は終盤まで明かされない最大の謎となっています。
坂東会館のスタッフと遺族たち:
会館を支える同僚たちや生花業者、納棺師など、葬祭を支えるプロフェッショナルたちが美空と漆原を取り巻きます。彼らの手仕事の細部までリアルに描かれている点が、本作に圧倒的な現場感と説得力を与えています。