「最初は良いと思わなかったのに、なぜか手放せなくなる」という現象は、単なる気の迷いではありません。そこには人間の知覚特性と音楽工学に裏打ちされた明確な根拠が存在します。スルメ曲の中毒性の理由を紐解く最大の鍵は、心理学における単純接触効果(ザイオンス効果)です。
人間は未知のものに対して本能的な警戒心を抱きますが、繰り返し触れることで親近感や好意度が増す傾向を持っています。しかし、音楽における単純接触効果は「何でも繰り返せば好きになる」という単純な話ではありません。ここに、スルメソングならではの音楽的仕掛けが介在しています。
音楽プロデューサーらへの取材によると、スルメソングの特徴には共通した制作上の美学が存在します。第1に「音数のレイヤー設計」です。一般的なポップスがボーカルと主旋律を前面に押し出すのに対し、スルメ曲はベースラインのうねり、裏拍で鳴るパーカッション、微細なシンセサイザーのパンニング(左右の定位)など、背後の音響情報が非常に緻密に作り込まれています。初聴時、人間の脳は主旋律を追うだけでキャパシティを使い切りますが、2回目、3回目と聴き進めるにつれて、無意識の領域にあった隠れたサウンドパーツが次々と脳内で知覚され始めます。この「新たな音を発見するプロセス」が、脳の報酬系を強烈に刺激するのです。
第2に「トニック(解決)の焦らし」です。多くの大衆曲は、誰もが予想できる心地よいコード進行で安心感を与えます。対してスルメ曲は、あえてコードの解決を遅らせたり、変則的なテンポやメロディラインの跳躍を取り入れたりします。最初は「引っかかり」や「居心地の悪さ」として認識された違和感が、反復によって規則性として脳にインプットされた瞬間、認知的カタルシスへと大逆転します。これこそが、一度ハマると容易に抜け出せない深い中毒性の正体です。