これまでの気管支拡張症治療は、細菌感染に対する抗菌薬投与や去痰薬の処方といった対症療法が主流でした。しかし2026年現在、呼吸器医療のパラダイムシフトが確実に進行しています。病態の根幹にある過剰な好中球性炎症そのものを標的とした新規病態修飾薬の開発と実用化です。
特に注目を集めているのが、好中球エラスターゼなどのセリンプロテアーゼ活性化を元から断つ「DPP1(ジペプチジルペプチダーゼ1)阻害薬(ブレンソカチブ等)」です。大規模国際共同臨床試験において、急性増悪の発生頻度を有意に減少させ、肺機能低下のスピードを抑制するデータが示され、従来の「感染が起きてから叩く」アプローチから「気道組織の破壊サイクルそのものを遮断する」新たな治療戦略が確立されつつあります。
一方で、薬物治療と車の両輪を成すのが、患者自身が主体となって行う「気道クリアランス療法(排痰法)」です。どんなに優れた新薬を用いても、気管支内に粘調な痰が留まり続けていては感染の火種を消すことはできません。
呼吸リハビリテーションの現場で指導される実践的手技には、以下の3つの柱があります:
- 体位ドレナージ:拡張病変が存在する肺葉(中葉や下葉など)の位置をCT画像で正確に把握し、重力を利用して痰が主気管支へと流れ落ちる姿勢(側臥位や軽度頭低位)を1日1〜2回、各10〜15分間維持する。
- 能動的呼吸サイクル手技(ACBT):通常の深呼吸(胸郭拡張)の後に、声門を開いたまま「ハッ、ハッ」と息を吐き出すハッフィングを組み合わせ、末梢の痰を中枢気道へ押し上げて愛護的に喀出する。激しい咳による気道虚脱を防ぐ効果がある。
- 呼気陽圧(PEP)器具の活用:専用のマウスピースを通じて呼気を吹き込むことで、気道内に一定の陽圧(10〜20cmH2O)をかけ、閉塞しかけた気管支を内側から押し広げて痰の移動を促すデバイスが日常管理に定着している。
これらに加え、室内の湿度管理(50〜60%の維持)、こまめな水分補給による喀痰粘度の低下、そしてインフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの定期接種が、急性増悪を防ぐ強固な防壁となります。