教科書や臨床カルテで頻出する「腸腰筋」という名称は、大腰筋と腸骨筋の総称です。両者は鼠径靭帯の深部で合流し、共通の停止部である小転子へと向かいますが、起始と機能には明確な相違点が存在します。
腸骨筋の起始は「腸骨窩」であり、脊椎には付着していません。停止は大腰筋と同様に小転子です。つまり、腸骨筋は骨盤と下肢を直接繋ぐ筋であるのに対し、大腰筋は体幹(腰椎)と下肢をダイレクトに連結しています。この走行の違いにより、体幹の安定性への関与度合いが大きく分かれます。
さらに、個体発生や退化の過程で約40〜50%の人にしか存在しないとされる小腰筋の起始停止の違いも重要です。小腰筋は第12胸椎〜第1腰椎の椎体から起こり、小転子までは届かず「腸恥隆起」や「弓状線(腸骨筋膜)」に停止します。大腿骨には付着しないため、股関節屈曲の主動作筋にはなり得ない点が最大の特徴です。