本作が単なる痛快なサスペンスに終わらず、重厚な人間賛歌として評価される背景には、刑務所という閉鎖空間が持つ暴力性と「制度化」の病理を描いた2つの重要エピソードがあります。
トミー殺害の冷酷な動機とノートン所長の失脚
収監から月日が経った頃、コソ泥の若者トミー・ウィリアムズが入所してきます。アンディは彼に読み書きや高校卒業資格(GED)の勉強を教え、トミーは見事に合格。師弟のような信頼関係が芽生えます。しかし、トミーが過去の服役先で同房だった狂気の犯罪者エルモ・ブラッチから「銀行の副頭取の妻と不倫相手のプロゴルファーを射殺し、その罪を夫の銀行員になすりつけた」という生々しい告白を聞いていたことが発覚します。
アンディが無実を証明できる唯一の生き証人を得た瞬間でした。しかし、アンディの無罪が立証されて出所されれば、刑務所内の囚人労働利権やマネーロンダリングの共犯関係が外部へ漏洩することを恐れたノートン所長は、夜間にトミーを中庭へ呼び出し、脱走を試みたという虚偽の口実を仕立ててハドレー刑務官に射殺させました。
このトミーの死によって、アンディは「合法的な司法手続きによる釈放」の道を完全に絶たれ、自らの手で壁を破る脱獄の決意を固めることになります。ノートン所長が最後に自決へと追い込まれたのは、自らの貪欲さと残虐さが招いた必然の結末でした。
ブルックスが直面した「制度化」の絶望
50年間ショーシャンク刑務所の図書係を務めた老囚ブルックス・ハットレンの仮釈放エピソードは、本作の心理的テーマである「制度化の恐怖」を克明に提示しています。
所内では本を愛する長老として尊敬を集めていたブルックスでしたが、50年ぶりに放たれた外の世界は、自動車が猛スピードで行き交い、誰も自分を必要としてくれない見知らぬ異郷でした。スーパーの袋詰めの仕事に適応できず、毎夜悪夢にうなされた彼は、保護施設の一室の梁に「Brooks was here(ブルックスここに眠る)」と刻み、首を吊って命を絶ちます。
「刑務所の壁は奇妙だ。最初は憎み、やがて慣れ、最後には依存する。それが制度化だ」というレッドの言葉通り、自由を奪われた空間に慣れ親しんだ人間にとって、外部の自由こそが致命的な毒となり得ることを見せつける痛烈な伏線でした。後に仮釈放されたレッドも同じ部屋に入り、同じ梁を見上げてブルックスの絶望を追体験することになります。