チリコンカンは、スペイン語の「chili con carne(チリ・コン・カルネ=唐辛子入りの肉)」が英語風に訛った名称です。料理名が示す通り、本来の主役は豆ではなく「肉と唐辛子」にあります。
一般的にメキシコ料理と混同されがちですが、実際の発祥地はアメリカ合衆国テキサス州南部です。19世紀半ば、テキサスがメキシコから独立してアメリカに併合される激動の時代に、メキシコ系住民(テハーノ)の伝統的な唐辛子使いと、アメリカ開拓民の牛肉食文化が融合して誕生しました。こうしたアメリカとメキシコの折衷スタイルを「テクス・メクス(Tex-Mex)料理」と呼び、チリコンカンはその最高峰のシンボルとして1977年にテキサス州の公式料理(State Dish of Texas)に指定されています。
興味深いことに、本場テキサスの厳格な愛好家たちの間では「本物のチリ(Chili)に豆やトマトを入れるのは邪道」という頑なな伝統派が存在します。初期のチリコンカンは、角切りの牛肉を大量の乾燥唐辛子(チリペッパー)や脂身とともに煮詰めた野性味あふれる保存食でした。これが全米へ広まる過程で、安価でボリュームを出せるキドニービーンズ(赤インゲン豆)やトマトが加えられ、私たちがよく知るマイルドで具だくさんな現在のスタイルへと進化を遂げました。