主観的なニュアンスにおいて豊かな広がりを持つ両者ですが、こと社会的な実務や公的な情報伝達の場においては、情緒を差し挟む余地のない明確な統制ルールが敷かれています。その決定的な根拠となっているのが、文部科学省・文化庁が告示している文化庁常用漢字表(2010年改定・現行2,136字)です。
常用漢字表に掲載されているのは「寂」の1文字のみであり、音読みの「ジャク」「セキ」、訓読みの「さび(しい)」「さび(れる)」が公式に認められています。対する「淋」の字は、表に掲載されていない「表外字(ひょうがいじ)」に分類されます。この制度上の明確な線引きによって、あらゆるオフィシャルな現場での表記ルールが定まっています。
日本新聞協会が発行する『新聞用語集』をはじめ、NHKや各民放キー局の放送基準、さらには省庁が作成する公用文において、「淋しい」という用字は原則として完全に排除されています。新聞記事やテレビのテロップで「淋しい」という表記を目にすることが皆無である理由は、単なる慣例ではなく、すべての国民に対して分かりやすく標準的な表記を届けるという公用文表記ルールの徹底によるものです。
上記の通り、社会的なコミュニケーションにおいては「正しさ」の軸が極めて明白です。文部科学省の通達に基づき、学校教育の教科書でも「寂しい」のみが教えられており、現代の知的な文書管理においては「公的な場=寂しい」という鉄則が完全に定着しています。