ネット上で最も頻繁に「世界一」の形容とともに拡散されたのが、イラン南部ファールス州のデジガー村近郊で暮らしていたアモウ・ハジ(Amou Haji)氏です。2010年代初頭から海外メディアで報じられ、日本国内でもテレビの衝撃映像番組や情報ポータルで度々特集されました。
報道各社やドキュメンタリー制作陣が記録したデータによると、ハジ氏が体を洗わなくなったのは20代前半の頃。それから2022年に亡くなるまでの約60年以上にわたり、水や石鹸を一切肌に触れさせない生活を貫きました。全身は煤と剥離した角質が何層にも重なり、まるで石化した樹皮や動物の表皮のような質感へと変貌。寝床は村外れの荒野に掘った地面の穴や、同情した村人たちが建てた粗末なレンガ造りの小屋でした。
彼が口にしていた食事は、車に撥ねられたヤマアラシや野生動物の腐乱した肉であり、1日に大型の錆びたオイル缶から5リットル以上の不衛生な水を摂取。さらに愛煙していたのは通常のタバコではなく、動物の乾燥した糞尿をパイプに詰めたものでした。その常軌を逸した生活環境は、現代の衛生基準に照らせば数週間と持たずに感染症で命を落としても不思議ではない状態でした。
しかし、当時の特番インタビューや地元関係者の証言によると、彼がこのような生活を選んだ背景には「若き日に経験した深い精神的トラウマと激しい失恋」があったとされています。心を痛めたハジ氏は、「清潔にすると病気になり、自分は死んでしまう」という強い強迫観念と恐怖心に囚われ、社会から完全に隔絶した荒野での隠遁生活を選び取ったのです。公の場で見せた表情の翳りには、単なるエキセントリックな奇行では片付けられない、引き裂かれた人間の悲哀が深く刻まれていました。
衝撃的な結末が訪れたのは2022年秋のことです。高齢となったハジ氏の健康を案じた村人たちによって数十年ぶりに無理やり体を洗われた数カ月後、体調を急激に崩し、2022年10月23日に94歳で息を引き取ったとAFP通信などの主要メディアが公式に報じました。不潔を極めた男が、皮肉にも清潔にされた直後に長寿の生涯を閉じるという結末は、人間の生体と精神の不可思議な結びつきを証明する事例として、現在も医学・生物学界隈で議論を呼んでいます。