闘病日記の中で最も読者の共感を呼び、かつ切実な情報として読まれているのが、手術後の過酷な回復プロセスです。開胸手術を終えた患者はICUで目を覚ましますが、そこから待ち受けているのは単なる安静ではなく、緻密に計算された「大動脈解離の後遺症リハビリ」です。
サバイバーの手記には、次のような段階的なリハビリの現実が描かれています。
- 急性期リハビリ(術後数日〜1週間):人工呼吸器の離脱後、ベッド上での端座位、足首の運動から開始。心電図モニターと血圧を常時監視しながら、わずか数メートルの歩行訓練を行う。
- 回復期リハビリ(術後2週間〜退院):理学療法士の指導のもと、心拍数や自覚的運動強度(ボルグスケール)を厳格に管理しながら病棟内の歩行や階段昇降を実施。血圧が急上昇しない身体の動かし方を体に叩き込む。
- 精神的葛藤(ICUせん妄と不安):長時間の麻酔や閉鎖的なICU環境から、幻覚や見当識障害(ICUせん妄)を経験する患者も少なくない。また、「また血管が裂けるのではないか」という予期不安との戦いが始まる。
無事に退院を迎えても、日常生活への復帰には数々の制約が伴います。大動脈解離の退院後生活における注意点として、医療現場から厳命されるのが以下の3大原則です。
第1に「過度な怒責(息こらえ)の禁止」です。重い家具を持ち上げる、強くいきんで排便する、強い負荷をかけた筋力トレーニングを行うといった行為は、瞬間的に収縮期血圧を200mmHg以上に跳ね上げます。そのため、緩下剤を用いた便通コントロールや、荷物の小分け搬送が必須となります。第2に「温度管理の徹底」です。冬場の脱衣所やトイレの暖房設置、熱い湯船への急な入浴の回避など、血管の急収縮を防ぐ環境整備が欠かせません。第3に「血圧測定のルーティン化」であり、朝・晩の決まった時刻に測定して数値を記録し、主治医と共有することが生命維持の基盤となります。