本作の物語は、一人の少年が祖母の住む古い日本家屋にしばらく預けられる場面から幕を開けます。高い梁が剥き出しになった古民家の内部は薄暗く、静寂が張り詰めています。少年はその薄暗い天井の奥に、言葉にできない異様な気配を察知します。
怯える少年に向けて、祖母は平然とした様子でこう言い聞かせます。「上を見なけりゃ怖くない。見なけりゃ、いないのとおんなじ」。祖母の言葉に従い、少年は上を見ないよう努め、平穏な日常を取り戻したかのように見えました。しかし、不可視の存在に対する好奇心と抑圧された恐怖は、少年の意識を徐々に蝕んでいきます。
そして物語の極限の瞬間、少年は耐えきれずに視線を真上へと向けてしまいます。見上げてしまった高い天井の梁の上——そこには、暗がりの中から剥き出しの狂気を含んだ眼差しで見下ろす、青白く歪んだ「天井の顔」が張り付いていました。見つめ合った刹那、その怪異は不気味な笑みを浮かべ、少年に向かって「いる」と囁きかけるのです。
このラストが読者に残す決定的な衝撃は、祖母の論理の完全な破綻にあります。「見なければいないのとおんなじ」という教えは、怪異を消し去る魔法ではなく、「一度でも見てしまえば、怪異の存在が絶対的な現実として固定化される」という不可逆の罠でした。見上げる行為そのものが存在の引き金となり、平穏だった少年の世界が永遠に怪異と同一の空間へと変貌してしまうこと——これこそが本作の結末の真相です。