ネット上の掲示板やSNSでは、「牛タンは輸入肉ばかりなのだから、どこの店で食べても大差ない」「駅ナカは観光客向けのぼったくりではないか」といった冷ややかな言説が散見される。しかし、取材現場から言わせれば、これらは決定的な事実誤認である。
第一に、牛タンの肉質を決定づけるのは原産地以上に「仕込みの手法」だ。原木と呼ばれる牛タンの塊から、外側の硬い皮をどの深さまで削ぎ落とすか(トリミング比率)、そして肉の繊維に対してどの角度で包丁を入れるかによって、噛んだときの歯切れと肉汁の保持力がまったく別物になる。チェーン店であっても、セントラルキッチンで機械カットされたものと、善治郎のように熟練の職人が一本一本の個体差を見極めて手切りしたものでは、食感のグラデーションに歴然とした差が生じる。
第二に、時間がない旅行者にとって最強の選択肢となるのが仙台駅牛タン弁当持ち帰りの存在だ。「冷めた牛タンは硬くて食べられない」というのも過去の固定観念に過ぎない。現在、仙台駅構内の駅弁売り場や各店直営のテイクアウトコーナーでは、黄色い紐を引くだけで生石灰と水の化学反応により蒸気が立ち上る「加熱式弁当」が標準化されている。約5分待つだけで、車内にて熱々で柔らかい牛タンを麦飯とともに味わうことができる。時間的猶予がない中で無理に行列に並び、発車ベルに追われながら掻き込むくらいなら、実演販売の焼きたて弁当を購入して車内で優雅に食す方が、体験価値としては遥かに高い。