映画ファンが最も混同しやすいのが「パルムドール」と米国の「アカデミー賞作品賞」の違いです。両者は受賞作の選定プロセス、思想、評価基準において対極に位置しています。
アカデミー賞は、映画芸術科学アカデミー(AMPAS)に所属する約1万人前後の映画業界関係者による記名・無記名投票で決定されます。そのため、興行的成功や大衆性、ハリウッドの産業的文脈が強く反映される傾向があります。一方、カンヌ国際映画祭のパルムドールは、毎年選ばれる世界的な映画監督、プロデューサー、俳優など8〜9名程度で構成される国際審査員団の密室ディスカッション(合議制)によって決定されます。
カンヌにおいて特筆すべきは、「審査員長(プレジデント)」の主観や美学が結果を激変させるという点です。例えば、クエンティン・タランティーノが審査員長を務めた2004年には、反ブッシュ政権のドキュメンタリー『華氏911』(マイケル・ムーア監督)がパルムドールを獲得し世界的な議論を呼びました。少人数の激論であるがゆえに、政治性や挑発的な作家性がストレートに評価される舞台なのです。