メガホンを取った是枝裕和監督が本作の構想に費やしたのは、実に5年以上の歳月だ。現場のスタッフによれば、撮影現場には常に異例の緊張感が張り詰めていたという。特にこだわったのは、セリフのない時間、すなわち「沈黙」の重さだった。
美術チームは撮影のために築80年の日本家屋を徹底的に改装し、壁の染みや床の軋みひとつに至るまで家族の積年の鬱屈を再現。是枝監督は俳優陣に対してあえて決定的なト書きを伏せた台本を渡し、その場で生じる本物の戸惑いや視線の揺らぎをフィルムに収めていった。完璧に整えられたフィクションではなく、ドキュメンタリーのごとき生々しさが立ち現れるのは、徹底したリアリズムへの執着が生んだ結果である。