移籍後、初めて訪れたエスコンフィールドHOKKAIDOでの日本ハム戦。マウンドに向かう有原航平の名前がコールされた瞬間、スタンドから湧き上がったのは、割れんばかりの拍手ではなく、地鳴りのようなブーイングでした。
このブーイングの深層には、単なる「他球団へ行った」ことへの反発ではない、日本ハムファン特有の情緒的な裏切られ感がありました。NPBにおけるポスティング制度は、球団の保有権を選手のために前倒しで放棄し、夢を後押しする「温情のシステム」としてファンに受け止められがちです。ファンは「球団の理解があってこそ渡米できたのだから、帰ってくるときは古巣へ戻るのが筋」という無言の物語(ナラティブ)を信じていました。
当時、SNSや掲示板、スポーツニュースのコメント欄には辛辣な言葉が溢れ返りました。
「球団にお金を残してくれたとはいえ、ライバル球団のソフトバンクに獲られるなんて耐えられない」
「あれだけ応援して送り出したのに、結局はお金だったのか」
しかし、グラウンド上の有原は動揺を見せるどころか、淡々と外角低めへ多彩な変化球を投げ込み、古巣打線を沈黙させていきました。マウンド上で見せるポーカーフェイスは、ある意味で感情を切り離した冷徹なプロの姿そのものでした。試合を重ねるにつれ、ネット上の論調も徐々に変化を見せ始めます。「悔しいけれど、やっぱり投球のレベルが違う」「ブーイングされるくらい警戒されている証拠」といった、実力を認めざるを得ない諦観と畏敬の念がファンの間に広がっていきました。