本作が放つ圧倒的なリアリティの裏には、緻密に計算されたタイミングと、アーティストたちのプライベートな転機がありました。10000 Hours 制作秘話と経緯を語る上で欠かせないのが、2019年9月30日にサウスカロライナ州の高級リゾートで行われたジャスティン・ビーバーとヘイリー・ボールドウィン(現ヘイリー・ビーバー)の公式結婚式です。本作は、そのわずか4日後の10月4日に電撃リリースされました。
米ビルボード誌などの音楽メディアが当時報じた関係者の証言によると、ダン+シェイのダン・スマイヤーズとシェイ・ムーニーがナッシュビルで本曲のデモを書き上げた際、共通のマネージャーであるスクーター・ブラウンを通じてジャスティンに音源が届きました。音源を聴いたジャスティンは即座に魅了され、自らのボーカルパートを録音することを熱望したと伝えられています。
当時、ジャスティンは若くして世界的なスターダムに駆け上がった代償として、深刻なうつ病や薬物依存、人間不信といった壮絶なメンタルヘルスの危機を経験していました。その暗闇から彼を救い出し、精神的な安定をもたらした存在こそがヘイリーでした。後に公開されたドキュメンタリーやインタビューで語られた「ヘイリーがいなければ、今の自分は生きていなかったかもしれない」という告白の通り、彼にとって彼女への愛は生き直すための錨(いかり)そのものだったのです。
公式ミュージックビデオでは、巨大な花壇のベッドの上で、ダンが妻のアビーと、シェイが妻のハンナと、そしてジャスティンがヘイリーと寄り添い合う姿が描かれています。全員が自らの実生活における伴侶と共演したこの映像は、単なるプロモーションを超えた「家族へのラブレター」として音楽史に刻まれることになりました。