「真っ黒な液体を体内に取り入れて本当に害はないのか」という疑問は、インターネット上のQ&Aサイトでも定期的に浮上するテーマだ。結論から言えば、イカの墨に人体へ危害を及ぼす毒性は一切含まれていない。漆黒の正体は、人間の髪の毛や皮膚の日焼けと同じ天然色素である「メラニン(ユーメラニン)」である。
さらに近年の食品機能学の研究では、このメラニン色素と複合体を形成している「ペプチドグリカン(多糖類とアミノ酸の複合体)」が、驚くべき生体調節機能を持つことが明らかになってきた。弘前大学医学部などの研究チームが発表した報告によると、イカ墨から抽出された多糖複合体には、マクロファージやNK(ナチュラルキラー)細胞などの免疫細胞を活性化させ、抗腫瘍作用や抗菌作用を促すポテンシャルが認められている。
加えて、強力な抗酸化作用によって体内の活性酸素を除去する効果や、脂質代謝をサポートする働きも示唆されている。かつて沖縄の伝統郷土料理において、産後の滋養強壮や体調不良時の解毒薬膳として「イカスミ汁(サグエー)」が重宝されてきた歴史は、現代の生化学の知見からも極めて理にかなった生活の知恵だったことが証明されている。