インターネット上で頻繁に見受けられる誤解に、「透明度が高い湖ほど生態系として豊かで優れている」という言説があります。水質クリアな湖は観光地として絶賛されやすく、SNS映えするスポットとして称賛を集めますが、環境生態学の視点ではこれは完全な事実誤認です。
摩周湖のように極めて透明度が高い湖は、専門用語で「貧栄養湖」と呼ばれます。プランクトンや栄養塩類(窒素やリン)が極端に少ないため、植物プランクトンが育たず、水が青く澄み渡るのです。つまり、透明度が高いということは、魚類や水生昆虫にとっては「餌が極めて少ない不毛地帯」であることを意味します。
逆に、適度にプランクトンが存在する「中栄養湖」や「富栄養湖」の方が、水生生物のバイオマス(生物量)としては圧倒的に豊かです。澄んでいることと、生命を育む力があることは同義ではないという視点は、湖沼環境を評価する上で見落としてはならない重要な科学的リテラシーと言えます。