おそばの甲賀を唯一無二の存在たらしめている最大の屋台骨が、店主・甲賀徹氏の卓越した技量と確固たる料理哲学です。甲賀氏は、江戸前蕎麦の最高峰として名高い創業150余年の老舗「赤坂 砂場」において、約16年もの長きにわたり研鑽を積んだ生粋の江戸前職人です。
砂場といえば、喉越しの良い細打ちの蕎麦と、本枯節を贅沢に使用した甘辛く濃厚な「辛汁(つゆ)」の完成度で知られる流派です。甲賀氏はその伝統の技法を骨の髄まで叩き込まれながらも、独立にあたって「伝統への敬意」と「現代の洗練」を融合させる道を選びました。毎朝厳選した国産玄蕎麦を自家製粉し、気温や湿度に応じて微細に加水率を調整しながら打ち上げる外二(蕎麦粉10に対してつなぎ2)の蕎麦は、角がピンと立ち、噛み締めた瞬間に豊かな穀物香が鼻腔を抜けます。
その実力は世界的権威にも高く評価されており、「ミシュランガイド東京」の創刊以降、コストパフォーマンスに優れ上質な料理を提供する「ビブグルマン」に幾度となく選出され続けています。審査員をして「伝統の出汁取りを土台に据えつつ、季節の素材を昇華させた蕎麦前の数々が秀逸」と言わしめる所以は、奇をてらわない実直な職人技に裏打ちされているからです。