新温泉町の観光資源における中核は、何と言っても平安時代初期(848年)に慈覚大師によって開湯されたと伝わる湯村温泉です。その象徴である元湯「荒湯」は、摂氏98度の高温泉が毎分約470リットルも湧出する圧倒的な湯力を誇ります。観光客が麻袋に入れた生卵やサツマイモを湯壺に沈めて茹で上げる光景はおなじみですが、本質的な価値は「住民の生活用水として今なお機能している点」にあります。朝夕、地元住民が湯壺で野菜や山菜を灰汁抜きする姿は、単なる観光インスタレーションではない、何百年と息づく本物の温泉文化を雄弁に物語っています。
一方、日本海に面した浜坂地区には浜坂温泉郷(浜坂温泉・七釜温泉・二日市温泉)が広がります。七釜温泉は1955年に掘削された比較的新しい温泉地ながら、国民保養温泉地に指定されるほどの優れた泉質を誇り、落ち着いた静寂を好む湯治客に深く支持されてきました。
この重層的な温泉文化を支えるのが、山陰随一の美食です。浜坂港は全国屈指の松葉ガニ(ズワイガニ)の水揚げ基地として知られ、冬期には全国の美食家が押し寄せます。カニのみならず、春のホタルイカ、初夏から秋にかけてのスルメイカやハタハタなど、四季を通じて水揚げされる魚介の鮮度は別格です。さらに山間部に目を向ければ、神戸牛や特産松阪牛など全国のブランド和牛の基礎となる「但馬牛」の純血種が大切に守り育てられています。鮮やかなサシがとろける但馬ビーフと、極上の海の幸を同時に味わえる贅沢さは、全国の地方自治体を見渡しても新温泉町ならではの特権的アドバンテージです。
加えて、毎年8月24日に湯村温泉街で執り行われる伝統行事「湯村の火祭り」では、五穀豊穣と無病息災を祈り、子どもたちが掛け声とともに松明を打ち振る幻想的な夜が広がります。田井の浜のシーカヤックや空中散歩アクティビティなど、滞在型観光のコンテンツも年々洗練の度を深めています。