松来未祐が遺した名作と知られざる軌跡を総力特集する上で、外すことができないのが『這いよれ! ニャル子さん』のクー子役と、『ひだまりスケッチ』の吉野屋先生役だろう。この両極端とも言える二つの役柄の裏側には、彼女の芝居に対する深い探求と執念があった。
クー子が見せる無機質なトーンからの突発的な狂気と歪んだ愛情表現は、彼女の巧みなブレスコントロールと声のピッチ操作があって初めて成立した奇跡的な造形だ。一方で、やまぶき高校の美術教師・吉野屋先生では、自由奔放でお茶目でありながら、生徒たちを誰よりも温かく見守る母性のような包容力を自然体で表現してみせた。今なお語り継がれる彼女の魅力とは、こうしたギャップを易々と飛び越える圧倒的な役幅と人間味に他ならない。