歴史の針を巻き戻すと、両者が生まれた背景には明確な時間差と地理的断絶が存在する。油そばの発祥は1950年代の東京都武蔵野市に遡る。名店「珍々亭」などが学生向けに安価で腹持ちのよいメニューとして提供し始めたのが原点だ。高価な豚骨や鶏ガラを大量に炊くスープを省き、特製の醤油ダレと少量のラードを太麺に絡ませて食べるという、極限まで無駄を削ぎ落としたミニマリズムがそこにはあった。
対するまぜそばは、2000年代以降の比較的新しいムーブメントだ。その決定的な起爆剤となったのが、名古屋市の「麺屋はなび」創業者である新山直人氏が考案した「台湾まぜそば」である。台湾ラーメン用のピリ辛ミンチ(台湾ミンチ)を茹で上げた極太麺に直接乗せるという偶然の閃きが、やがて「名古屋めし」の新定番へと押し上げられた。シンプルを極めた東京生まれの油そばに対し、まぜそばは地方の濃厚な食文化とジャンクな快楽主義が融合して生まれた全く別の生命体なのである。