安全地帯を語る上で欠かせない2大ヒット曲ですが、両者を詳細に分析すると、バンドがわずか1年足らずで遂げた劇的な音楽的跳躍が鮮明になります。
ワインレッドの心 比較と違いという視点で見ると、『ワインレッドの心』はAマイナーを中心とした哀愁漂うラテンタッチの歌謡ロックであり、明快なメロディラインと情熱的なダンディズムが前面に押し出されていました。これに対し『恋の予感』は、洋楽のAOR(Adult Oriented Rock)やフュージョンの語法を大胆に取り入れ、和声の洗練度を極限まで高めています。
特筆すべきは、恋の予感 コード進行と転調の秘密です。変ホ短調(E♭マイナー)を基調としながら、ヴァースからコーラスへと至るプロセスで、メジャーコードとマイナーコードが絶妙なバランスで配置されています。サビ前でリスナーの感情を高揚させつつ、サビに入った瞬間にストリングスと玉置浩二のファルセットが重なり合い、浮遊感のあるモーダルインターチェンジ(同主調借用和音)が効果的に差し込まれます。この緻密な和声設計が、歌詞に描かれた「掴みどころのない相手の心」と完璧に共鳴し、哀愁の中にも澄み切った気品を醸し出しているのです。
プロデューサー星勝の手腕によるストリングスアレンジと、安全地帯のギタリスト武沢豊、矢萩渉が奏でる繊細なアルペジオ、そして六土開正の堅実なベースと田中裕二のタイトなドラミング。これらが一体となることで、恋の予感 ヒットの決定的な理由である「重層的な音像美」が完成したのです。