新幹線利用者の間で長年議論の的となるのが、「なぜ静岡市や浜松市といった政令指定都市をのぞみはすべて通過するのか」という点です。インターネット上では感情論や地域対立の文脈で語られることも少なくありませんが、ダイヤ設計の現場データと交通工学の観点から検証すると、極めて明確な工学的・経済的理由が浮かび上がります。
第一の理由は、「のぞみ12本ダイヤ(毎時最大12本ののぞみを設定する超過密運行)」における線路容量の物理的限界です。最高時速285km/hで走行する東海道新幹線において、1編成が駅に停車して再加速するまでに失われるタイムロスは約5分から6分に達します。静岡や浜松に「のぞみ」を停車させた場合、後続列車との間隔維持が破綻し、1時間に最大17本(のぞみ12本、ひかり2本、こだま3本)を走らせる世界屈指の過密輸送網を維持できなくなります。
第二の要因は、都市間輸送における競合交通機関(航空機)とのタイムリミットです。交通経済学では「4時間の壁」と呼ばれ、東京〜大阪・広島・福岡間において鉄道が航空機に対してシェアを握るためには、東京〜新大阪間を2時間20分台で結ぶことが絶対条件とされています。途中駅への停車追加は所要時間の増大を招き、航空網への乗客流出につながるリスクを孕んでいます。
JR東海は静岡エリアに対して、毎時2本の「ひかり」と毎時2本以上の「こだま」を配発し、名古屋や新横浜での「のぞみ」乗り継ぎによる利便性を担保することで、高速通過と地域利便性のバランスを図っています。