この事件が単なる詐欺被害で終わらず、日本経済史に残るスキャンダルとなった元凶は、事件発覚後に起きた経営陣の内紛劇です。
事件後、積水ハウスは弁護士らによる外部の第三者委員会を立ち上げ、客観的な「調査報告書」を作成させました。その報告書には、現場担当者のみならず、取引を承認し早期決済を後押しした阿部俊則社長(当時)の善管注意義務違反やガバナンス欠如の責任が明記されていました。
当時の積水ハウス会長兼CEOであった和田勇氏は、報告書の結果を重く受け止め、2018年1月の取締役会において阿部社長の解任動議を提出しようと試みます。企業の最高権力者として、55億円の損失責任をトップに取らせようとしたのです。
ところが、取締役会の密室で起きたのは前代未聞の「逆クーデター」でした。阿部社長派の取締役らが結束し、逆に和田会長の解任動議を電撃動議。採決の結果、なんと和田勇会長が解任に追い込まれ、経営責任を問われるはずだった阿部俊則社長が会長に就任して実権を掌握するという、主客転倒の人事が成立してしまったのです。
阿部体制となった経営陣は、不都合な事実が詳細に記された調査報告書の「全文非公表」を決定。要約版のみを開示して幕引きを図りました。この露骨な隠蔽と権力闘争は市場や海外機関投資家から猛烈な批判を浴び、2020年には解任された和田元会長側が株主提案を行って委任状争奪戦(プロキシーファイト)を仕掛けるなど、泥沼の法廷闘争と企業価値の毀損が長期間にわたって続きました。