腹部を切開する手術は、トランペット奏者にとって致命的とも言える打撃だった。管楽器を吹くには、腹筋に強い圧力をかける必要があるからだ。「もう二度とあの音色は出せないかもしれない」——そんな恐怖が頭をよぎった夜は数知れない。
しかし、彼は諦めなかった。退院後、焦る気持ちを抑えながらミリ単位の呼吸トレーニングを再開。最初はかすれた音しか出なかったラッパが、少しずつ往年の輝きを取り戻していく。現在ではライブステージに完全復帰を果たし、温かく深みのあるトーンで客席を包み込んでいる。病を越えたことで、彼の奏でるメロディには以前にも増して感情が宿り、聴く者の心を揺さぶって離さない。