インカ帝国建国神話の中でも特に有名なのが「チチカカ湖の伝説」です。天空の主である太陽神インティが、無秩序に暮らす人類を憐れみ、自らの子であるマンコ・カパックとママ・オクリョを聖なるチチカカ湖の「太陽の島」に送り出しました。
太陽神は二人に一本の「黄金の杖」を授け、「この杖を地面に突き刺し、杖が一突きで大地深くに沈み込む場所こそ、お前たちが都を築くべき約束の地である」と命じました。二人は北へと旅を続け、標高約3,400メートルに位置する肥沃なクスコ盆地の「ワナカウリの丘」に到達します。そこで黄金の杖を大地に差し込むと、杖はいとも容易く地中へと吸い込まれました。この奇跡の地こそが、ケチュア語で「世界のへそ」を意味する聖都クスコとなりました。
この神話は単なるファンタジーではなく、極めて高度な政治的プロパガンダとしての側面を持っていました。支配階級が自らを「太陽神の直系子孫」と位置づけることで、後見となる宗教的権威を確立し、周辺諸部族を統合・支配する正当性を獲得したのです。