佐柳島を一躍全国区に押し上げたのが、堤防の切れ目を猫がダイナミックに飛び越える「飛び猫」の写真です。写真集の舞台となったことで、カメラやスマートフォンを構えた観光客が日々堤防沿いに集まります。
飛び猫のメイン撮影スポットとして知られるのは、長崎港周辺の堤防や本浦港付近の防波堤です。堤防に約50cm〜80cmの隙間があり、猫たちが地上に降りることなく堤防伝いに移動しようとする際にジャンプする習性を利用して撮影されます。
しかし、実際の現場ではネット上の華やかな画像からは見えない現実があります。現地を訪れた旅行者や島民の声を取材すると、以下のような実態が浮き彫りになります。
第一に、「猫はいつでも飛んでくれるわけではない」という点です。猫が活発に動くのは気温の穏やかな午前中や夕暮れ時であり、真夏の炎天下や冬の強風時は日陰や風よけに潜り込んでほとんど動きません。写真集のような劇的な瞬間を捉えるには、猫の自然な行動をじっと待つ強い忍耐力が必要です。
第二に深刻化しているのが、一部の心ない撮影者によるマナー違反です。ジャンプシーンを無理に撮ろうとしてエサで危険な堤防の端へ誘導し、猫が海に転落しかける事故や、大声を上げて追い立てる行為が問題視されています。地域社会学の観点からも、過度な観光行動が地域住民の静寂な生活や動物福祉(アニマルウェルフェア)を脅かす「観光公害」の構図が指摘されています。
佐柳島の猫たちは観光施設で飼育されているのではなく、島民に見守られながら暮らす地域猫です。撮影時は一定の心理的バウンダリー(境界線)を保ち、猫の自発的な動きを尊重する姿勢が求められます。