広大な桂離宮の参観ルートには、数寄屋建築と庭園土木が到達した最高峰の美が至るところに散りばめられています。参観ツアーで案内される主要な見どころの中から、鑑賞の際に絶対に押さえておくべき核心部を掘り下げます。
表門から御幸道を進むと、まず足元に現れるのが「霰割(あられわり)の敷石」です。自然石を巧みに組み合わせた幾何学的な舗装は、歩きやすさを提供すると同時に、参観者の歩調を自然とコントロールします。その先、池のほとりに広がる「州浜(すはま)」は、黒い平らな玉石を敷き詰めて海辺の波打ち際を模したもので、先端に据えられた石灯籠が岬の灯台を想起させます。京都の山間部にいながら大海原の情緒を再現するという、八条宮の奔放なイマジネーションがうかがえる造景です。
庭園内で最も格式の高い茶室が松琴亭(しょうきんてい)です。茅葺き入母屋造りの堂々たる外観を持つこの建物に足を踏み入れると、一の間・二の間の境にある襖と床の間に目を奪われます。青と白の加賀奉書紙を市松模様に貼り分けた大胆な意匠は、江戸時代初期のものとは信じがたいほどモダンで鮮烈な印象を与えます。光の差し込む角度によって濃藍の紙が艶やかに輝き、見る角度ごとに異なる表情を見せるこの空間は、桂離宮を象徴する屈指のハイライトといえます。
池を渡り、小高い築山を越えた先にあるのが、田舎家風の佇まいを見せる笑意軒(しょういけん)です。かつて建物の南側一面に広がっていた水田を借景として取り込むため、腰壁には円形の窓が横一列に6つ穿たれています。窓の下には金箔の上に四季の風景を描いた腰張りが施されており、素朴な藁葺きの屋根と高貴な金箔の輝きが絶妙な調和を保っています。「日常的な田園の風景」と「宮家の洗練された遊興」が同居するこの建築には、八条宮家が求めた肩肘を張らない風流の極致が宿っています。
池を見下ろす高台に立つ「月波楼(げっぱろう)」は、その名の通り中秋の名月を水面に映して愛でるために建てられた茶亭です。天井を見上げると、船の底をひっくり返したような「化粧屋根裏」の構造が剥き出しになっており、竹と木材の組み合わせが軽快なリズムを刻んでいます。ここから眺める池泉と松琴亭の遠景は、計算し尽くされた視界の枠取り(フレーミング)によって、まるで一幅の動く絵画のような感動を与えてくれます。