物語の中盤、十本刀の重鎮である「明王の安慈」こと悠久山安慈が編み出した技、それが「二重の極み」です。廃仏毀釈の悲劇から狂気の救済者へと転じた安慈が、10年の荒行の末に到達したこの技は、単なる力任せの打撃ではなく、極めて精緻な打撃理論に裏打ちされています。
作中で解説される原理の根幹は、「あらゆる物体には衝撃に対して反発する抵抗力(硬度)が存在する」という点にあります。正拳突きを放つ際、第一関節(中節骨付近)を瞬時に当てて対象の「抵抗」を相殺し、その抵抗がゼロになっている刹那——時間にして75分の1秒(約0.013秒)の間隙に、拳の第二関節(基節骨から拳頭)を完全に押し込んで第2撃を放ちます。これにより、物質本来の強度は無効化され、分子結合を断ち切られたかのように粉微塵へと破砕されます。
主人公・緋村剣心の強さに追いつくため焦燥感を抱えていた相楽左之助は、京都へ向かう下諏訪の山中で偶然安慈と遭遇します。左之助は「1週間で習得できなければ命を奪う」という極限状態のなか、不眠不休で巨岩を打ち続け、右拳の皮膚と筋肉をズタズタに損壊させながらも、持ち前の闘争本能でこの秘技を会得しました。破壊の対象を「外側」ではなく「内側から粉砕する」という視覚的インパクトは、当時の少年読者に絶大な衝撃を与えました。